KAMARQ

REVOLUTIONARIES INTERVIEW #001

ARTIST ぼくのりりっくのぼうよみ × KAMARQ 和田直希

「MP3を超えるフォーマットを作りたいんです」と話す
ぼくりりにとっての革命とは。

カマルクの代表を務める和田直希が、日本で新しいことを次々に実践しているクリエイターを訪ねてインタビューする連載企画「Revolutionaries」。第一回目のゲストは、CAMPFIREでクラウドファンディングを成功させ、対談メディア「Noah’s Ark」をスタートさせたぼくのりりっくのぼうよみ。ニコニコ動画で配信していたラップが注目を浴び、弱冠17歳でメジャーデビューを果たしたミュージシャンでありながら、社会が抱える問題に対して鋭いアクションを起こし続ける彼の“革命者”たるゆえんとは。

これまで家具というものを買ったことがなくて。ニトリで本棚買ったくらい?(笑) ──── ぼくりり

和田直希(以下W) ぼくりりさんのことは、友人の東市くん(東市篤憲。映像ディレクター・プロデューサー)が手掛けた「sub/objective」のMVを拝見してからずっと気になっていたんです。

ぼくのりりっくのぼうよみ(以下B) ありがとうございます。和田さんは実業家なんですか?

W はい、起業家であり実業家です。僕は今カマルクっていう家具の会社をやっています。18歳で起業してから色々な事業を手掛けてきたんですが、実は19〜22歳の間は僕もミュージシャンをやっていました。28歳の時にインドネシアに移住して34歳の頃にカマルクを創業して今に至ると。ビジネスに関しては比較的上手くやっていると思います。

B なんでそんなに上手くいったんですか?

W 世の中の需要と供給のバランスを見極めるのが得意なんだと思います。カマルクとして第一弾にリリースした製品は、デバイスがインターネットと繋がって制御可能になるIoTと呼ばれる技術を活用しています。例えば、遠くに住む高齢者の家族の様子を確かめるために一定時間開け閉めがなかったら手元のアプリケーションからアラームが鳴るドアとか。

B なるほど〜。

W 次のサービスは家具のサブスクリプションサービスです。僕はこの10年ずっと家具を作って来たので、いつも家具のことを考えていました。でもそんな人って少ないですよね。そこで改めて人にとっての家具とは何なのか?ということを考え直しました。たとえば、「あなたの好きなブランドは?」っていう質問に家具のメーカー名を答える人は少ないじゃないですか。もはや家具はインフラに近い。だから、そもそも所有概念すらなくしてしまおうと、家具を「所有する」のではなく「使用する」サービスです。

B それって、いくらで何個まで利用できるんですか?

W 椅子でもテーブルでもベッドでも家具一つにつき1ヶ月で500円から。それで1年間使ったら別の家具に交換できます。例えば、子どもが生まれて最初の1年はベビーベッドを借りて、翌年は子供用の椅子に交換できるといった具合に。

B 僕は最近引越したんですけど、この前まで住んでいた家は家具が最初から全部ついてくるタイプでした。これまで家具というものを買ったことがなくて。ニトリで本棚買ったくらい?(笑)

W そうそう。特に賃貸の家に住んでいる人だと「どうせ引っ越しするから」という理由で高い家具を避ける人が多い。そもそも家具って交換するのがすごく面倒くさいし。でも、サブスクリプションならブラウザからボタン一つで家具を交換しにきてくれます。それを実現させるために、去年は運送会社と1年間で何十回と打ち合わせしました(笑)。

B 交換した家具はその後どうなるんですか?

W 古くなったものはリビルドして再利用します。「大量生産、大量消費、大量廃棄の時代ではない」ということ。それはカマルクが全事業を通じて伝えたいメッセージでもあります。

B うーん、確かに。それはよくわかります。

ぼくりりさんの音楽を聴いていると恋愛特有の湿り気をまったく感じないんですが、恋愛ってしますか?(笑) ──── 和田

W ぼくりりさんに「特定の誰かに向けて曲を書いている」という意識はありますか?

B いえ、ぼくりりでは自分がやりたいことをやっているだけなので、聴かせる対象のことは考えていないですね。わりと最初から“やりたい音”があるほうなので、自分が選んだ作曲家の方に仮のトラックを作ってもらって、そこに僕が歌詞とメロディをつけるという流れです。憧れの人に曲を作ってもらえるのが楽しくて。そういう意味では僕はプロデューサーなんですよね。

W こういう世界観の歌詞を書こうというのはあります?

B それも自分はフラットに選べるタイプで。これまで3枚のアルバムを出しているんですが、1枚目(『hollow world』)は自分が言いたいこと、2枚目(『Noah’s Ark』)は当時流行っていたポストトゥルースという状況について書きました。3枚目(『Fruits Decaying』)は楽曲ごとに決めたテーマに沿って書いていったという感じですね。

W わ〜、何だかミュージシャンっぽくないですね。広告代理店でクリエイティブやっている人と話しているみたい(笑)。じゃあ、エモさを全面に出したのは最初だけ?

B そうですね。当時は自分の感情を燃やすっていうモードだったんですが、それはそれで良い思い出になりました。

W ぼくりりさんの音楽を聴いていると恋愛特有の湿り気をまったく感じないんですが、恋愛ってしますか?(笑)

B ええ、まあ普通に(笑)。

W 会いたくて死にそうとか、君のことを考えると眠れないとか、そういう気持ちにはなります?

B ああ、最近は全然ないかもしれないですね。

W これってもしかしたら個人の気分じゃなくて時代性なんですかね。昔だったら結婚しているとかいないとか関係なく、常に恋愛のモードがあったじゃないですか。それに、曲を聴けばそのミュージシャンがどんな恋愛をしているのかが透けて見えたり。

B 僕はぼくりりの音楽に自分が出てくるのが面白くないんですよ。特定の属性に依存した音楽ってつまらないじゃないですか。聴き手の想像がすごく制限されちゃうから。僕はいろんな音楽をやりたいタイプなので、「この歌詞を書いているのはこんな人」というバイアスが邪魔なんですよね。

W 僕は音楽があってやっと自分というものが完成すると思っていたから、実は結婚した途端に制作のモチベーションが下がってしまったんです。ぼくりりさんはそれとは全く違うタイプですよね。

B 自分ではない別の主人公を立てているようなイメージですね。その設定にも特にこだわりはなくて、例えばサードアルバムには不倫している女性や水商売に携わっている女性が主人公になっている曲があります。

W 彼女たちの生活とか感情はどうやってリサーチするんですか?

B 普通に身の回りにそういう人たちがいるんですよ。あとはTwitterで流れてくる物語がとにかく興味深くて。

W ふだん音楽はずっと聴いていますか? 

B 日々変化しているんですが、基本的にはずっと聴いています。特にMondo Grossoがすごく好きで、『MG4』(2000年にリリースされたデビューアルバム)は今でも聴きまくっています。

W 確かにぼくりりさんの曲にはソウルとかフュージョンっぽいニュアンスがありますもんね。

B あと、前はニコニコ動画でVOCALOID楽曲をよく聴いていました(笑)。

テクノロジーを使うことで人間がより人間に近づいていくというのは、すごく面白い ──── ぼくりり

W これは別のインタビューで知ったんですが、ぼくりりさんってもともとミュージシャンになりたいと思っていたわけじゃないですよね? ミュージシャンじゃなければ何になっていたと思いますか?

B さっき和田さんに「広告代理店っぽい」と言われましたが、実はマーケッターにも興味があります。すぐ抽象的なことを言ってノウハウ化したがる癖があるから(笑)。でもこうやって自分の活動を音楽という形で残していると、逆にどの業界にも横移動しすいんじゃないかと思っていて。

W さっきから聞いていると、ぼくりりさんって思考がものすごくクリアですよね。深く思い悩むことってないんですか?

B うーん、やりたいことがいっぱいあってどれからやろうかなっていう、それくらいですね。

W 人生最大の失敗は?

B 東大に落ちたことですね。勉強が得意だったし、せっかくなら一番良いところに行きたいなと思っていたんです。合格発表の瞬間は事務所とかレコード会社のみんなに集まってもらって、カメラまでまわしていたんですが、「番号がない」ってなった時の空気は本当に酷かった(笑)。でも、今考えるとがんばる才能がなかったんですよ。勉強中でも漫画読んじゃうタイプなんで。和田さんは挫折したことありますか?

W 僕は小六からまともに学校に行っていなくて、15歳で家を出てしばらく路上生活していたんで、そもそも挫折から始まっています(笑)。はじめて働いた北新地のバーも1ヶ月でクビになったし。

B いったい何をして1ヶ月でクビになったんですか?

W 皿洗い担当だったんですが、もたついてたんだと思います。あと、当時はまともに大人と話せなかった。逆に、ぼくりりさんにとって最高の自己実現を実感した瞬間はいつですか?

B ファーストアルバムを出した時ですね。あの時のぼくりり周辺の状況には自分自身もエキサイトしていました。

W では、ぼくりりさんにとっての理想の未来を教えてください。

B 不労所得を早めに実現したいですね。日本では教育の過程で「安定した職に就けないと不幸になる」とか「大学を出ないといけない」とか「仕事とは我慢であり、その対価にお金をもらう」とか、いろんな呪いをかけられるじゃないですか。それで多くの人は好きでもない仕事を選んで長時間労働を強いられる。だから、僕はその呪いを早めに解除したいんです。

W それはよく理解できます。自分を支配するにはお金は大切な要素だと思います。

B 自分を支配するのは大事ですよね。僕は「自分がやっているのは正しいことなんだろうか、見えない誰かに許されているのだろうか」って時々考えてしまうんです。それって日本人の多くが背負っている、ある種の宗教じゃないかと思うんですが。

W Eゴッフマンの『行為と演技』という社会学の名著があって、彼はそこで「自己を日常世界に生起する相互行為のコンテキストにおいて定義する」という演出論的視点を追求しているのですが、その概念をぼくりりさんにも感じます。要は社会が自己を定義づける、これはビジネスにおいても重要なヒントとなるキーワードだと思っています。最後に、このインタビュー連載のタイトルは「Revolusionaries(革命者たち)」なんですが、ぼくりりさんにとっての革命とはどういうものですか?

B MP3を超えたいなっていうのはありますね。

W それは音楽を聴くフォーマットとして?

B そうですね。まず、音楽家はMP3を売る作業をやめたほうがいいと思います。僕はこれから聴き手の音楽体験を拡張したくて、例えば雨の日にしか聴けない音楽だとか、特定の感情を持った時に流れてくる音楽とか、そういうものに興味があるんです。ライブは音源を拡張する手段の一つですが、それ以外にも何かあれば良いなと。テクノロジーの進化によって音楽にも新しい要素を付与できる気がしています。

W とても素晴らしいですね! 例えば都内のとあるフランス料理店でもコースメニューのプレートごとに料理に合った音楽が流れてくるレストランがあって、それも既存のレストランのフォーマットではない感じで好きです。テクノロジーの進化でより多くの可能性が見えてきますよね。

B テクノロジーを使うことで人間がより人間に近づいていくというのは、すごく面白いと思っています。

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